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●● レビュー Visually, Not Raciallyジュリー(クリスティ・マクニコル)は見通しの悪い夜、一匹の犬を車で轢いてしまう。すぐに病院で手当をして貰い、飼い主を探すが見つからなかった。そんな時にジュリーが家で襲われそうになった所を犬が助けてくれた。ジュリーは自分の犬のように可愛がるようになったが、ある日家から抜け出してしまい、町で何もしていない黒人を襲った。その犬は黒人を襲うように調教された「ホワイト・ドッグ」だったのだ。 監督のサミュエル・フュラーの癖のある生々しい描写と、彼の一貫した人種差別に対する憎しみが勝利をもたらした作品だ。犬という人間の友達であり、人間の犠牲者でもある動物を通して描く人種差別。人間も犬と同じで、調教された人達なのだ。ジュリーが元飼い主の小さな娘達に向かって、「こんなバカ親父の話しなんて2度と聞かないで!」と怒鳴り散らすシーンが象徴的だ。彼女達もバカな親に育てば、ひょっとしたら犬と同じで差別者にだってなるうるのだから。また悲しいかな、黒人は害のない友人なのだと分かると、今度は元飼い主と同じ白人の老人を憎んでしまう。ここは実は原作では黒人の調教師のキーズがそのように調教するようになっているのだが、映画ではフュラーが変えたらしい。フュラーがそのように変えたお陰で、ヒューマニズム溢れる作品となった。 また犬が抜け出して街を歩いている時に、犬の死角となった所に黒人の小さな男の子が居たりするシーンがあって、ドキドキする。そして犬が教会で人を襲った時に、自然を兄弟と讃美していたフランチェスカが犬に囲まれたステンドグラスの下で亡くなっていたりとメッセージ性が強い。またエンニオ・モリコーネの感傷的な曲も物語を盛り上げている。 人間の奥底に潜む「差別心」と何だろう?サミュエル・フュラーは、それを狂気的に独特の癖のある映像で沢山の事が見えてくるように思えた。映画の中で「犬は白か黒しか分からないんだ。視覚的な問題で人種差別的な問題ではない」という台詞がある。視覚的にも人種差別的にも分かる人間だからこそ、簡単にそれが変わるのかもしれないという希望も見える。 (Reviewed >> 1/26/09:DVDにて鑑賞) |
●● 100本映画 やっと見られました。嬉しいー。中々メディア化されませんでした。ポール・ウィンフィールドが出ているので、ずっと見たいと思っていたんですが中々見る事が出来ず...というのも、アメリカでは差別的だと猛反発を受けたので、劇場公開も2箇所しかされませんでした。公開する側のパラマウントがしり込みしたそうです。この事実を受けて、傷心となった監督のサミュエル・フュラーはフランスに渡って映画を撮るようになったそうです。実は抗議をしたのがNAACP。日本ではAllcinemaさんによると、ビデオ発売された後に劇場公開されているそうです。今回アメリカで初めて正式にDVDを発売したのがクライテリオン・コレクション。マニア好みの映画をDVD化している会社です。という訳で日本での方が見ている人が多いだろう珍しい作品です。差別主義の白人の男性によって黒人だけを襲うように訓練された犬が「ホワイト・ドッグ」。映画でも言っていましたが、元々はプランテーションの奴隷主が脱走した黒人奴隷を追うのに使うようになったのが始まり。お金が欲しい黒人を集めて、わざと犬をいじめるようにさせて、犬に黒人からは攻撃されるのでその前に攻撃するように訓練する。NAACPが抗議する理由も分かる。劇中では無残に黒人達が亡くなっている。でも映画はその悲しい歴史を克明に伝えていると私は思いました。原作通りだったら、多分差別的に私も思ったかもしれないけれど、サミュエル・フラーは見事にヒューマニズム溢れる作品に仕立てたと思いました。言葉で感情を表す事の出来ない犬を使って、差別とは何か?を説いていたように思います。黒人や他の人種への差別が当たり前の環境だと、その環境に順応してしまうんですよね。例えば、とある家庭で差別語を平気で子供の前で言っていたら、それは子供にそのように伝わっていて当たり前になっている。犬の精神状態と、差別者達の精神状態が置き換えられていてわかりやすかったように思う。 所で原作者のロマン・ギャリーの実体験だそう。ロマン・ギャリーの恋人だったか妻だったかが、同じように車で犬を轢いてしまい、看病して怪我を回復させたけれど、直った時に庭師の黒人を攻撃したり、近所を通った黒人を攻撃したりして、その犬が「ホワイト・ドッグ」だと知ったそう。だから映画での設定も主人公のジュリーが若い女優で、その恋人が脚本家という設定だったのですね。ロマン・ギャリーも脚本家。女優のジーン・セバーグと結婚していた。離婚してだいぶ経っていたけれど、その彼女が自殺したのをきっかけに落ち込み、その後に彼も自殺した。 ポール・ウィンフィールドに対する熱い思いをこの前散々書いたので、書かないつもりでしたが... 実はこの映画で調教師を演じているウィンフィールドですが、実生活でも犬を沢山飼って調教していた犬好きだそうです(そういえば彼の名作「Sounder / サウンダー (1972)」も犬の話しでしたね)。なので一箇所だけ犬に笑みをこぼすシーンがありますが、今までに見た事のないような本気の笑みでしたね。あと、調教する時にフル装備で犬と格闘するシーンがありますが、ロサンジェルスの真夏の30度を超える炎天下の中、あの装備を着込んで1時間以上も犬と格闘したそうです。クライテリオン・コレクションにはプロデューサーや脚本家が当時を語る特別映像も付いてます。それの中でプロデューサーがそのように語ってました。後、サミュエル・フラーは最初ジュリー役にはジョディ・フォスターを検討したけれど、ジョディのスケジュールが合わなかったそう。確かにジョディがジュリーだったら、多分私は5点満点つけてましたわ。ポール・ウィンフィールドが演じた調教師のキーズには、サミュエル・フラーの友人でもあるビリー・ディ・ウィリアムスを考えていたそう。きっと犬と格闘しても、彼だったら髪の毛一本乱れる事のない伊達な男爵だったでしょうね。 この映画でのサミュエル・フラーの演出が物凄く好きです。エンニオ・モリコーネの曲とのバランスも素晴らしい。音だけで伝える所、またはスクリーンの映像の絵だけで伝える所とメリハリがあり緊張感のある社会派な作品です。教会の場面とかも好きですが、ポール・ウィンフィールドが働いているアニマルタレント事務所の所長さんが、R2D2の写真に向かって「最近こういう奴等が出てきちゃったから、こっちの商売上がったりだねー!」とダーツの矢(本当は麻酔銃の針)を投げるシーンです。笑った。 実は私はよく犬に追いかけられます。実は今日も放し飼いになっている犬がいると思った瞬間に猛ダッシュで逃げたし。更に今日子供のお迎えに行った時に一緒に帰ってきた黒人の男の子も「犬によく追いかけられる。昨日なんて2回も。」と犬の鳴き声を聞いて話していた。私の場合は小さい頃に噛まれた事があって、今でも大きな犬には恐怖心を覚えます。でも犬は嫌いじゃないです。でもマナーや常識の全くない飼い主が大嫌いです。特に鎖をしてないで散歩している人とか、家だからと鎖をしてないでフェンスを越えて逃げられている飼い主とか... 大嫌いです。そういう人に限って「うちの犬は大丈夫だから」といいます。そんなの知らないよ。他人はいちいち貴方様の犬が大丈夫かどうかなんて覚えておきませんから... 多分何かあった時に警察とかにも同じ言い訳をするんだと思います。犬が一番の被害者なんですよね。何かあった時に犠牲になるのは、飼い主じゃなくって犬なんだから。人間で言えば子供。この映画でもそうでした。 やっぱりポール・ウィンフィールドが絡むと長くなりますね。 (0105本目) |
●● トリビア 「ショック集団」のサミュエル・フラーによる人種差別を描いた作品。当時「リトル・ダーリング」に出演して大人気だったクリスティ・マクニコルが出演。「サウンダー」にてオスカーの主演男優賞にノミネートされたポール・ウィンフィールドが共演。 アメリカでは差別的と論争になり、正式に公開はされていない。それに心痛めたサミュエル・フラーはその後にフランスに移動して映画を作っている。 サミュエル・フラーはこの話しが来た時には、ジュリー役にはジョディ・フォスター、キーズ役にはビリー・ディ・ウィリアムス、カラザスにはリー・マーヴィンの配役を考えていたと言う。 また最初の製作段階では、サミュエル・フラーではなくロマン・ポランスキー監督に依頼したが製作が進まず断念。その後何年かかけてサミュエル・フラーに依頼された。 調教師役のポール・ウィンフィールドは実生活でも犬の調教をしていた。 |
●● その他 |
●● 受賞歴 |
●● サウンドトラック Soundtracks not available |
●● 関連記事 * 映画秘宝 2011年 09月号 怖い映画100!ブラック・ホラーの歴史にて |
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●● インフォサイト http://www.imdb.com/title/tt0084899/http://en.wikipedia.org/wiki/White_Dog http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=21780 |
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