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●● レビュー "Drinketh my blood abideth in me, and I in him"ドクター・ヘス・グリーン(ステファン・タイロン・ウィリアムス)は考古学の権威だ。ブルックリンの博物館でアシャンティ王国時代の剣が見つかり、ヘスはその剣を預かった。家には今アシスタントとしてヘスを手伝うハイタワー(エルヴィス・ノラスコ)が居たが、どうも精神的にやられており自殺願望があった。何とか止めたヘスだったが、翌朝、剣でハイタワーから刺されてしまった。ハイタワーは銃で自殺。その音でヘスは意識を戻した。ヘスの刺された傷は消えていた。自分の銃で自殺をしようとしたが出来なかった。そしてハイタワーの流した血を見て、床に這いつくばってヘスは血を飲んだ。しばらくすると女性から電話が掛かってきた。ガンジャ・ハイタワー(ザラー・エイブラハムス)と名乗るハイタワーの妻だった。夫の行方を捜していた。お金の無いガンジャは強引にヘスの所に泊まる事になるが... 70年代の知られざる名作『ガンジャ&ヘス』をなんとスパイク・リーがリメイクした作品。とても意外な組み合わせである。ビル・ガンが制作した『ガンジャ&ヘス』は時代の先を行き過ぎていた甘美でサイケデリックで官能的で刺激的な作品だった。ビル・ガンのオリジナル版を観たら絶対に色々なシーンが脳裏に焼きついてしまうし、サム・ウェイモンの音楽は恐怖心を掻き立てる最高の旋律だった。スパイク・リーは物語やプロットは割りと忠実にリメイクしようとしているが、台詞を足して説明し過ぎで、オリジナルの気味の悪さと甘美さとインテリジェンスを失っていた。そしてこの作品ではさすがにスパイクぽい台詞は全く合わなかったし、無理矢理過ぎている。 ビル・ガンの『ガンジャ&ヘス』も中毒性の怖さを描いていたが、それだけではなかった。甘いから惹かれ中毒になった訳じゃなかった。血は人にとっての生きていく為に大事なもので宝であった。人の命は宝なのだ。そこまで描ききれていなかったのである。 (Reviewed >> 5/28/15:DVDにて鑑賞) |
●● 100本映画 スパイク・リー監督最新作。と言えども、時代は変わった。あのスパイク・リーですらクラウドファンディングにて資金を集めないと映画を作れない時代なのだ。いや、スパイクは昔から資金集めには苦労してたっけ。『Malcolm X / マルコムX (1992)』は著名黒人に資金を集って作られた言わばクラウドファンディングの先駆けだった。いや、黒人映画はいつもそうであった。近代ブラックムービーの先駆けである『Sweet Sweetback’s Baadasssss Song / スウィート・スウィートバック (1971)』も、コメディアンのビル・コズビーが資金を出している。今回作られたのは、あの『Ganja & Hess / ガンジャ&ヘス (1973)』のリメイク作品。オリジナルの『ガンジャ&ヘス』は私が愛するヴァンパイア映画ナンバーワンである。イノック主教(クラーク・ピータース)の教会(前作『Red Hook Summer / 日本未公開 (2012)』と同じ教会)の一番後ろの席に座るドクター・ヘス・グリーン(ステファン・タイロン・ウィリアムス)。彼は考古学で有名だ。その後、アシスタントのハイタワー(エルヴィス・ノラスコ)と博物館に向かう。そこでアシャンティ王国時代の剣を見せられ、調査の為に家に持ち帰った。家ではハイタワーが自殺を図ろうとしていたが、ヘスが何とか食い止めた。しかし翌朝に今度はヘスがハイタワーに襲われ、アシャンテの剣で襲われ刺された。動かぬヘスを見てハイタワーは銃により自殺した。しかしその銃声で目が覚めたヘス。傷跡は元通りであった。しかし血を流している死んでいるハイタワーの血を見て、思わず床に這いつくばってその血を舐めた。それからは血に取りつかれていくヘス。暫くすると、夫のハイタワーを探していると、ガンジャ・ハイタワー(ザラー・エイブラハムス)から連絡が入る。ガンジャはヘスの豪邸を見て無理矢理ヘスの家に泊まる。2人はいつの間にか惹かれあっていたが... という事で、割りとオリジナルに忠実。しかしスパイクは「リメイク」という言葉が嫌いなのか「リ-イマジネーション」(造語)と言っている。リメイクではないので、スパイクらしさも多く取り入れているのだ。冒頭のように自分の作品を再利用したりしているし、やたらとNYを押してくる。冒頭からNYの町でダンサーが踊っている映像が流れている。そしてオリジナルには無かったHIVへの懸念という点も取り入れた。最後も男性から女性に代わっている。そしてスパイクらしいジョークも取り入れている。偽名が「ディック・ロング(訳はご想像にお任せします)」とかね。スパイクの約束ドリーショットもある。そしてヘスの家は40エーカー(スパイクの会社名にもなっている、奴隷解放の時に約束されていた40エーカーとラバから)!!完全にスパイク色の染めたリ-イマジネーション映画であった。 しかしそのスパイク色がオリジナルが持っていたインテリな雰囲気を壊してしまった。それが実に不思議である。スパイクはインテリな人でインテリな映画を撮り続けていたのに。オリジナルのインテリな雰囲気は、シーンをより妖艶に盛り上げて独特の雰囲気を醸しだしていた。オリジナルでビル・ガン(オリジナルの監督であり脚本家であり出演者)が全裸でバスルームで自殺し、その血を上半身裸で舐めるデュアン・ジョーンズの姿、そしてガンジャとヘスのラブシーンは甘美で芸術的で誰が忘れる事が出来るのであろう?という名シーンだ。この映画では同じシーンでも全裸という衝撃的な部分だけで、多分これから私が思い出す事はないだろう。いやスパイクはその全裸を美しく妖艶に撮ろうとは努力していたと思う。しかし不思議な事にそれはただの全裸だったのだ。 そして致命的だったのが音楽である。クライマックスの教会のシーンでのラファエル・サディークの曲は中々だったが、他のブルース・ホーンズビーの曲やラップなどがポップ過ぎで全く絵と合っていなかった。オリジナルのサム・ウェイモンの奇妙で気持ち悪くて気味悪い旋律と、魂のこもったゴスペルはオリジナルを非常に盛り上げていたのだ。 ちなみにタイトルはスペンサー・ウィリアムスの国立フィルム登録簿入りしている『The Blood of Jesus / 日本未公開 (1941)』にも似ているが、こちらにも全く関係ない様子。 オリジナルのラストは気持ち悪くこちらに果敢に向かってくる。しかしこの映画では向こうを向いて未来を見てしまっている。ガンジャに未来なんてあるのか?私が好きな『ガンジャ&ヘス』とスパイクが好きな『ガンジャ&ヘス』は明らかに違うのがそこで分かった。私の解釈があっているかは分からない。映画なんて見る人によって解釈が違うのは当然だ。でも少なくともスパイクの解釈は好きになれなかった。オリジナルは特にこちらの興味心とかインテリジェンス、そして映画魂を超刺激してくる作品であったが、このリ-イマジネーション映画には刺激されなかった。『She’s Gotta Have It / シーズ・ガッタ・ハヴ・イット (1986)』や『Do the Right Thing / ドゥ・ザ・ライト・シング (1989)』であんなに刺激してきたスパイクがなぜ? (1364本目) |
●● トリビア ブラックムービーの鬼才スパイク・リーが40年の時を経て、ビル・ガンの『ガンジャ&ヘス』(73年)を蘇らせた。資金はキックスターターにて集められた。音楽は「トニー・トニー・トニー」のラファエル・サディーク。 全米公開は2015年2月13日から限定公開&ビデオ・オン・デマンドにて。 |
●● その他 『ガンジャ&ヘス』 |
●● 受賞歴 * The BEST OF SOUL2015 映画秘宝 私が選んだトホホ映画 2015年度2位 |
●● サウンドトラック 1. Doors To Nowhere - Govales2. Space Patrol - Illegalize 3. Stella (feat. Trama) - Arnold Maivia 4. Coochie Time - Nou 5. I Don't Feel God - The Izm 6. Water - Coldway 7. They Say - Jasiel Ace 8. Grave For 2 - BAMA MCGRO 9. Too Late - Bobby G. 10. Enter the Void (Black Hole) - buffalo black 11. All Night - Dana Hilliard 12. As We May Dream - Siedah Garrett Soundtracks from Amazon.co.jp |
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●● インフォサイト http://www.imdb.com/title/tt3104930/http://en.wikipedia.org/wiki/Da_Sweet_Blood_of_Jesus Not available from Allcinema |
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