|
●● レビュー "Revenge!!!"ヴァージニアの林でナット少年は儀式を受けていた。ナットの胸には3つの腫物があり、それは彼の優秀さを証明するものであった。儀式を執り行っていた老人はアフリカの言葉でこう叫んだ「彼はリーダーなのだ!」と。ナット少年は、当時の黒人にしては珍しく字が読めた。しかしそれを白人の人に知れるとお仕置きの対象になるので隠していたが、ナットを所有する家の夫人エリザベス・ターナー(ペネロープ・アン・ミラー)は、だったら聖書を読みなさいとナットに渡した。それから成長したナット・ターナー(ネイト・パーカー)は、黒人奴隷たちを指導する説教師になっていた。ある日、マスターであるサム・ターナー(アーミー・ハマー)に連れられ奴隷セールに出かけた時、怯えるみすぼらしい黒人女性チェリー(エイジア・ナオミ・キング)が売られていたが、買い手がつかなかった。ナットはサムにチェリーをターナー家で所有してもらうようにお願いした。綺麗にしたチェリーに惹かれていくナット。一方で、余りお金を儲けていなかったサムは、ナットを黒人専用の牧師にして、2人で南部のプランテーションを回りお金を稼いでいた。そこで見かけた奴隷の状況に胸を痛めるナット。自分にも許し難き事が起き、そして理解のあったサムも変わり始めた時、ナットは黒人を集めた。1831年8月、神のお告げにより、ナットと他の黒人たちが斧を手にした... サンダンス映画祭で2冠を達成した奴隷反乱を起こしたナット・ターナーの半生を描いた作品。飽くまでも史実に「基づいた」作品であり、少し脚色もされている。サンダンス映画祭では2冠に輝いただけでなく、その映画権利が破格の金額で取引された事も話題になり、オスカーを狙う10月に鳴り物入りで全米公開開始。しかしその前に監督・主演のネイト・パーカーの大学時代の事が問題となり、水を差した形で報道されている。『ジャンゴ 繋がれざる者』に始まり、『それでも夜は明ける』でのオスカー受賞を最高峰にして、最近の奴隷映画ブームは納まらない。この映画もとてもいいタイミングで制作され上映された。サンダンス映画祭の2冠がそれを示している。しかしその盛り上がりの中で冷めている人たちも居る。それを良しとしない人たちが居る。『ジャンゴ』でのリベンジは架空の人物だった。しかし今回は歴史的人物。その男がハッキリと口にした「リベンジ」。これを許さない人は多い筈だ。あの物怖じしないスパイク・リーですらそこまで描かなかった。そしてナットとチェリーのシーンはとてもロマンチックに描き、リベンジのシーンはとても残酷にそしてグロテスクでありながら現実的に描いている。これは怒る人が多そうだ。歴史的人物をここまで描いた事はなかったのだ。 スパイク・リーですら踏み込めなかった領域に、踏み込んでしまったのだ。しかも比喩も何もない。物凄く率直に誰にでも分かるように語られてしまっている。ナットが叫ぶ「リベンジ!」。この言葉が胸に刺さる者たちと、逆に耳が痛い人たちが居るだろう。 (Reviewed >> 10/07/2016:劇場にて鑑賞) |
●● 100本映画 「オスカー間違いなし!」とまで言われていた作品。少なくともオスカーのノミネーションは確実だと思われていた。なぜならサンダンス映画祭で大賞と観客賞を受賞。最近、この2冠を達成していると、オスカーでも認められ、ノミネーションは確実にされるからである。しかも、そのサンダンス映画祭にて、破格の価格で配給権が売れた。権利を獲得したフォックスサーチライトは、オスカーが一番狙える10月での公開を決定し、その時を待っていた。しかし... 監督・主演のネイト・パーカーの大学時代の事(前に書いたのでもう書かない。ここでご確認を)が明らかになり、一斉にネイト・パーカーがバッシングに遭い、興行成績も全く振るわないという異常事態になってしまった... 作品はサンダンス映画祭で公開された時と劇場公開では同じ作品なのに...ナット・ターナーの反乱を描いた作品である。反乱を描いたというか、反乱にたどり着くまでを丁寧に書いている作品である。ナット・ターナーとは、奴隷制度時代の1800年に奴隷を使っていたヴァージニア州に生まれた。生まれながらにして奴隷だった男だ。奴隷が文字が読めるというだけでも罰せされた時代に、ナットは学に長け文字が読めた。運がいい事に、ナットを所有していた家の夫人がそれを怒るどころか、文字が読めるなら「一番の本を読みなさい」と聖書を渡す。良い年ごろになったナットは黒人奴隷たちを掘っ建て小屋に集めて説教をしていた。ナットを所有していた家は、経済的にあまり上手くいっておらず、彼らはナットを利用した。ナットを黒人奴隷用の牧師として各家に出向かせ、お金を稼いでいたのだった。しかしその間に、他の家では惨い仕打ちを黒人奴隷にしており、それを目撃して心を痛めていくナット。そしてナットの身にも悲劇が起きてしまう。愛する妻が乱暴されて... という物語なんですね。この映画は多少脚色している。一番特徴が出ている所は、やはりロマンチックな役が得意なネイト・パーカーなので、監督でもそれを遺憾なく発揮している。ナットと妻チェリーの描写は、とにかく胸がキュンキュンする。後は、前にも書いたけれどナット・ターナーの真実は誰にも分からない。なにせ唯一の自伝的な本は他人の手によって書かれた物で、しかも反乱後に書かれた物故に、かなり著者の心情が含まれていると考えられているからだ。なのでこれはネイト・パーカーと脚本家が描いたナット・ターナーの物語である。そのパーカーと脚本家は、大学時代に女性に乱暴した罪を問われ裁判で無実となったが、この映画でナットは妻や他の女性が乱暴された事で反乱に向かわせる。これはとても興味深い事なのではないか。映画のボイコットなどのニュースよりも、ここの部分をもっと論議すべきなのだ。 冒頭のアフリカの土着的スピリチュアルな儀式やナット・ターナーの白塗りなど、ナット・ターナーが実際に反乱の日を神からのインスピレーションで決めたりとスピリチュアルな人だったという事が垣間見られる描写だ。ちなみに私が観ていた劇場では何回も感嘆する観客の声「Good Lord...」が漏れて聞こえてきた。その言葉は劇中でもナットが妻となる女性を観て思わず言ってしまった言葉である。人々をスピリチュアルにさせてしまう映画だったようにも思える。 「リベンジだ」とハッキリ言ってナットは斧を手にしている。このシークエンスは最高にカッコいいと思った。そのカッコ良さが心に刺さった。しかしこれは、見る側の人によって全く違う感情を呼び起こす事になる。こんなにハッキリと言ってしまった映画を観た事ない気がするのだ。もしかしたら過去に映画でもあったかもしれないが、こんなにそれまでの奴隷400年の歴史の憎しみを生々しく感じた事は無かった。それ故にまたふと最初に書いた事を思い出す。この作品はサンダンス映画祭でも劇場でも同じ作品を流しているのに...と。 (1503本目) |
●● トリビア 俳優ネイト・パーカーが監督・主演・脚本に挑んだ作品。奴隷解放に邁進したナット・ターナーの若い頃が描かれている。タイトルは『The Birth of a Nation / 國民の創生 (1915)』に対抗して同じタイトルに。 サンダンス映画祭にてプレミア公開され、大賞と観客賞の2冠に輝き、サンダンス史上最高額となる17.5ミリオンドルにて権利が買われた(実際には別の会社にもっと高額を提示されたが、パーカーはフォックスサーチライトの実績を買い17.5ミリオンドルにて売却)。 日本では第29回東京国際映画祭にて公開決定。 |
●● その他 |
●● 受賞歴 * The BEST OF SOUL2016 映画秘宝 私が選んだベスト10 2016年度3位 * Sundance Film Festival 2016 Won Audience Award Dramatic : Nate Parker 2016 Won Grand Jury Prize Dramatic : Nate Parker |
●● サウンドトラック Soundtracks not available |
●● 関連記事 * 別冊映画秘宝2016年版 この映画を見逃すな!にて本作品について寄稿。(11/21/16)* 映画秘宝 2017年6月号のブラックムービー最前線にて本作ついて寄稿。(4/21/17) |
|
●● インフォサイト http://www.imdb.com/title/tt4196450/https://en.wikipedia.org/wiki/The_Birth_of_a_Nation_(2016_film) Not available from Allcinema |
|
|